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警備会社も対象です――公共事業労務費調査とは?交通誘導警備員の賃金が設計労務単価につながる仕組み
毎年秋になると、公共工事に関わる会社へ「公共事業労務費調査」の案内が届きます。
建設会社にはなじみのある言葉かもしれませんが、警備会社の中には「建設業者を対象にした調査ではないのか」「交通誘導警備員も関係するのか」と感じる方もいるのではないでしょうか。
結論から言えば、警備会社も関係します。
国土交通省は、調査対象労働者について「元請、下請(警備会社を含む)を問わず、全ての労働者(51職種)」と案内しています。51職種には「交通誘導警備員A」と「交通誘導警備員B」も含まれます。
この調査は、単なる行政上のアンケートではありません。現場で実際に支払われた賃金を把握し、翌年度以降の公共工事設計労務単価を決める基礎資料となる重要な調査です。
今回は、公共事業労務費調査とは何か、なぜ警備会社と交通誘導警備員に関係するのかを、専門用語をできるだけ使わずに整理します。
公共事業労務費調査とは何か
公共工事を発注するとき、国や自治体は、工事に必要な費用を積算して予定価格を決めます。その積算には、資材費だけでなく、現場で働く人の労務費も必要です。
しかし、人件費は地域や職種によって異なり、毎年のように変化します。そこで農林水産省と国土交通省は、公共工事に従事した労働者へ実際に支払われた賃金を、都道府県別・職種別に毎年調査しています。これが公共事業労務費調査です。
調査は昭和45年から続いており、原則として10月の賃金が対象です。調査対象となった公共工事に従事した労働者について、賃金台帳などをもとに支払い実態を確認します。
すべての公共工事、すべての会社へ一律に調査票が届くわけではありません。国や自治体などが所管する対象工事から調査対象が選ばれ、その工事に関わる元請・下請企業が調査に参加します。自社や自社の警備員が対象に該当するかは、届いた案内や元請会社からの連絡、当年度の調査手引きで確認することが大切です。
なぜ警備会社まで調査するのか
公共工事では、工事そのものを行う技能者だけでなく、交通誘導警備員も現場を支えています。
道路工事やインフラ工事では、歩行者の安全確保、一般車両の誘導、工事車両の出入りなど、交通誘導がなければ安全かつ円滑に進めにくい現場が少なくありません。交通誘導警備員の確保も、工事を予定どおり進めるために必要な労務の一つです。
そのため、公共事業労務費調査の対象職種には、交通誘導警備員Aと交通誘導警備員Bが設けられています。
警備会社が下請として現場に入っている場合でも、対象外になるとは限りません。国土交通省が「下請(警備会社を含む)」と明記しているのは、現場の賃金実態をできるだけ正確に把握するためです。
調査結果は何に使われるのか
調査結果は、公共工事の積算に用いる「公共工事設計労務単価」を決める基礎資料になります。
簡単に言えば、次のような関係です。
実際に支払われた賃金を調べる
↓
都道府県別・職種別の実態を集計する
↓
公共工事設計労務単価の決定に活用する
↓
公共工事の予定価格を積算する際の基礎になる
2026年3月から適用されている公共工事設計労務単価は、全国全職種の加重平均で前年度比4.5%上昇し、14年連続の引き上げとなりました。東京都では、8時間当たりの単価として、交通誘導警備員Aが20,500円、交通誘導警備員Bが18,700円とされています。
ただし、この金額をそのまま警備会社への発注価格だと考えてはいけません。この点は誤解が生じやすいため、次回の記事で詳しく取り上げます。
正確に回答することが、なぜ大切なのか
この調査は、現場の賃金実態を行政へ伝える仕組みです。
調査対象となった会社が正確に回答しなければ、実際に支払われている賃金と、集計されるデータの間にずれが生じる可能性があります。反対に、対象企業が賃金台帳や手当の内容を確認し、手引きに沿って正しく回答することで、現場の実態が基礎資料へ反映されやすくなります。
もちろん、一社の回答や一回の調査だけで、翌年の単価が機械的に決まるわけではありません。調査結果は審査・集計され、さまざまな条件を踏まえて単価が決定されます。
それでも、交通誘導警備員の賃金実態を制度へ伝える重要な機会であることに変わりはありません。
警備会社が確認したいこと
調査対象の連絡を受けた場合、少なくとも次の点を確認しておきたいところです。
- 対象工事と対象期間はどこか
- 対象となる警備員は誰か
- 賃金台帳の内容と実際の支払いが一致しているか
- 基本給、各種手当、時間外・休日労働などをどう記入するか
- 交通誘導警備員A・Bの区分をどう確認するか
- 提出方法、期限、審査方法はどうなっているか
記入方法は自己判断せず、国土交通省が公開する当年度の調査手引きや説明資料を確認し、不明点は案内された窓口へ問い合わせるのが確実です。
独立を考える人にも知ってほしい理由
警備業で独立すると、現場の受注や人員配置だけでなく、賃金台帳、社会保険、教育、資格、原価管理などにも責任を持つことになります。
売上を増やすことだけが経営ではありません。自社が支払う賃金を正確に記録し、必要な調査へ適切に回答できる体制をつくることも、社会から信頼される会社の条件です。
また、自社の賃金水準が地域や公共工事の動向と比べてどうなのかを考えるきっかけにもなります。「人を集めて現場へ出す」だけではなく、人財が長く働ける賃金と会社運営をどう両立させるか。公共事業労務費調査は、その問いを経営者に投げかける制度でもあります。
調査は、現場の賃金を社会へ伝える機会
公共事業労務費調査は、建設会社だけの調査ではありません。公共工事に関わる警備会社と交通誘導警備員も、制度の中に明確に位置づけられています。
実際の賃金が調査され、その結果が公共工事設計労務単価の基礎となり、将来の公共工事の積算へつながっていく。その意味では、調査への正確な回答は事務作業であると同時に、現場の実態を社会へ伝える行為でもあります。
次回は、この調査から決まる「公共工事設計労務単価」と警備会社への「請負単価」の違いを整理し、建設会社・警備会社・交通誘導警備員の三者が持続できる適正な警備料金について考えます。
執筆・監修:株式会社IMS 榎本 恒