「警備料金は安いほど得」は本当か?設計労務単価から考える、現場を止めない適正価格

※前回の記事では、公共事業労務費調査の目的と、警備会社・交通誘導警備員も調査対象になる仕組みを解説しました。制度の概要から確認したい方は、こちらをご覧ください。
https://ims.tokyo.jp/contents/1818

建設会社にとって、警備料金は工事原価の一つです。同じ人数、同じ時間であれば、見積金額が安い会社を選ぶ方が有利に見えるのは自然なことです。

一方で、交通誘導警備員は、必要な日に必要な人数がそろわなければ、工事の進行にも影響します。資格者や経験者が不足すれば、予定していた配置ができないこともあります。

では、警備料金は安ければ安いほど、建設会社にとって本当に得なのでしょうか。

今回は、公共事業労務費調査と公共工事設計労務単価を手がかりに、建設会社、警備会社、交通誘導警備員の三者が持続できる「適正な警備料金」について考えます。

これは、警備会社から建設会社へ一方的に値上げを求める話ではありません。価格と引き換えに、警備会社がどのような価値と責任を返すべきかまで含めた話です。

設計労務単価は、警備会社の請負単価ではない

2026年3月から適用されている公共工事設計労務単価は、全国全職種の加重平均で前年度比4.5%上昇し、14年連続の引き上げとなりました。

東京都の交通誘導警備員は、所定労働時間8時間当たりで次の水準です。

  • 交通誘導警備員A:20,500円
  • 交通誘導警備員B:18,700円

ここで最も重要なのは、設計労務単価と警備会社の請負単価を混同しないことです。

公共工事設計労務単価は、公共工事の工事費を積算するためのもので、基本的には労働者に支払われる賃金に関わる単価です。国土交通省も、現場管理費や一般管理費などの諸経費は含まれておらず、交通誘導警備員については警備会社に必要な諸経費を含まないと明記しています。

したがって、「交通誘導警備員Bの設計労務単価が18,700円だから、警備会社への発注価格も18,700円程度でよい」という関係にはなりません。

警備料金には、現場に立つ一人を支える費用がある

警備会社が一人の交通誘導警備員を安定して配置するには、本人へ支払う賃金以外にも費用がかかります。

  • 社会保険などの事業主負担
  • 求人広告や面接などの採用費
  • 新任教育・現任教育
  • 資格取得と更新の支援
  • 健康診断
  • 制服、誘導灯、無線機などの装備品
  • 管制担当者による配置・連絡・勤怠管理
  • 営業所、管理部門、システムの運営
  • 急な欠勤時の交代要員や応援体制
  • 会社を継続し、改善するための適正な利益

見積価格は、単に「日給に利益を足した数字」ではありません。必要な日に一人を確実に現場へ送り出し、安全に仕事を終えてもらうための仕組み全体の価格です。

設計労務単価は重要な参考資料ですが、そこへ一律の率を掛ければ請負単価が決まるわけでもありません。現場条件、配置時間、資格者の要否、夜間・休日、移動、交通費、急な増減員、契約条件などを確認し、必要な原価を積み上げて考える必要があります。

安さが、建設会社の負担を増やすこともある

警備料金を抑えすぎると、警備会社は賃金や採用、教育、予備人員に十分な費用をかけにくくなります。

警備会社の収益が悪化する
↓
警備員の賃金や教育へ回せない
↓
採用できない、定着しない
↓
資格者・経験者・交代要員が不足する
↓
必要な日に必要人数を配置できない
↓
現場担当者の手配負担や工程リスクが増える

もちろん、警備員が不足しただけで直ちに工事が止まるとは限りません。しかし、人数変更のたびに複数社へ電話をかける、資格者を探し直す、配置計画を組み替えるといった対応が増えれば、現場監督や発注担当者の時間が失われます。

見積書の警備料金だけを下げても、手配の不安定さや工程変更まで含めた全体費用が高くなれば、建設会社にとって有利とは言い切れません。

適正な警備料金は「供給能力への投資」

適正な警備料金を、「警備会社のための値上げ」とだけ捉えると、建設会社側のメリットが見えにくくなります。

本来は、必要な日に、必要な人数を、必要な品質で確保するための費用です。

適正な料金が、警備員の賃金、採用、教育、資格取得、予備人員、管制体制へ正しく使われれば、次のような効果が期待できます。

  • 警備員の採用力と定着率の向上
  • 有資格者・経験者の確保
  • 欠員や直前キャンセルの減少
  • 急な増員への対応力向上
  • 現場ごとの注意事項を理解した人員の配置
  • 現場担当者の警備手配負担の軽減
  • 工程遅延リスクの低減
  • 工事車両、歩行者、一般車両の安全確保

建設会社に返ってくる価値は、「警備員一人」だけではありません。安定した供給、連絡の速さ、教育された人財、万一の欠員への対応まで含まれます。

警備会社にも、価格に応える責任がある

適正価格は、警備会社に無条件で高い料金を支払うことではありません。

警備会社が「人件費が上がったので値上げしてください」と伝えるだけでは、長期的な信頼関係はつくれません。適正な料金を受け取る以上、その一部を警備員と現場へ還元する責任があります。

  • 警備員の処遇を改善する
  • 教育を形式だけで終わらせない
  • 資格取得を支援する
  • 現場の特性に合った人員を配置する
  • 欠員時の連絡と代替手配を迅速にする
  • 事故や苦情、ヒヤリハットを共有して改善する
  • 配置実績や有資格者数など、供給能力を説明できるようにする

料金改定をお願いするのであれば、「何に使い、どのような品質で返すのか」を具体的に示す必要があります。

たとえば、賃金改善額、資格取得者数、定着率、欠員対応率、教育内容、連絡体制などを確認し、改善結果を取引先と共有する。そこまで行って初めて、価格の話がパートナーシップの話になります。

三者が持続する好循環をつくる

公共事業労務費調査では、公共工事で実際に支払われた賃金を調べ、その結果が将来の公共工事設計労務単価を決める基礎資料になります。

目指したいのは、次のような循環です。

警備員の賃金を改善する
↓
公共事業労務費調査に賃金実態が反映される
↓
将来の公共工事設計労務単価を検討する基礎になる
↓
公共工事の予定価格・工事費へ反映される
↓
建設会社が必要な警備費を確保しやすくなる
↓
警備会社への適正な発注につながる
↓
警備会社が賃金・採用・教育・資格へ還元する
↓
人財の確保と警備品質が高まる
↓
建設会社が必要な警備員を安定して確保できる
↓
工事の安全と円滑な施工につながる

ただし、一回の調査結果が、一社の警備料金や翌年の設計労務単価へ直接、機械的に反映されるわけではありません。調査、審査、集計、単価決定、発注、契約、賃金への還元には、それぞれ別の判断があります。

これは自動的に完成する循環ではなく、発注者、建設会社、警備会社がそれぞれの立場で適正な労務費を意識することで近づける、理想的な好循環です。

独立希望者が「安売り」の先に見るべきもの

警備業で独立したばかりの時期は、売上をつくるために価格を下げてでも仕事を増やしたくなるかもしれません。

しかし、安く受注して人数を増やすだけでは、持続可能な会社になりません。

  • 警備員へ適正な賃金を払えるか
  • 社会保険などを適正に負担できるか
  • 教育費と資格取得費を確保できるか
  • 採用費をかけても回収できるか
  • 管制や管理部門を維持できるか
  • 急な欠員にも対応できるか
  • 一定の利益を残し、会社を存続できるか

これらを満たした上で、安定した人員と品質を取引先へ提供できる価格が、自社にとっての適正な受注単価です。

売上高の大きさだけでなく、人を採用し、育て、長く働いてもらい、取引先から継続して選ばれる仕組みをつくること。それが独立後の経営者に求められます。

価格だけでなく「現場を止めないために何が必要か」を話す

建設会社は警備会社を安く使い、警備会社は警備員を安く使う。この構造では、長期的には誰も得をしません。

発注者が必要な労務費を確保し、建設会社が適正な警備費を確保する。警備会社はその料金を警備員の処遇、教育、採用、資格、管制体制へ還元する。その結果が、「必要な日に、必要な人数を、必要な品質で確保できる」という形で建設会社へ返ってくる。

建設会社と警備会社は、発注する側とされる側である前に、良い現場を一緒につくるパートナーです。

これからは「いくらまで下げられるか」だけではなく、「現場を止めないために何が必要か」を、双方が数字と実績をもとに話し合う時代になってきたのではないでしょうか。

IMSグループも、価格だけの競争ではなく、人財、教育、品質、安定供給で取引先へお返しできる警備会社を目指してまいります。

執筆・監修:株式会社IMS 榎本 恒

参考資料