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自分が有利な場所で勝つ――90%が100人未満、警備業という「地味な起業市場」
大企業に就職する。成長中のIT企業に入る。あるいは、自分で新しいサービスを立ち上げる。
20代、30代で将来を考えるとき、目に入りやすいのは、こうした華やかな選択肢です。しかし、若いうちに経営者を目指す道は、それだけではありません。
まだ多くの人が注目していない業界に入り、現場を知り、仕組みを変え、地域に必要とされる会社をつくるという道もあります。
その一つが、警備業です。
警備業という言葉から、多くの人が思い浮かべるのは、制服を着て建物を守る人や、工事現場で車両を誘導する人でしょう。それは間違いではありません。しかし、警備業を「働く場所」だけでなく「会社をつくる場所」として見ると、これまでとは違った姿が見えてきます。
警備業者の90%は、警備員100人未満
警察庁が公表した「令和7年における警備業の概況」によると、2025年末の全国の警備業者は1万949社です。
そのうち、警備員100人未満の事業者は9,885社で、全体の90.3%を占めています。さらに、警備員5人以下の事業者だけで2,912社、全体の26.6%です。
営業所数で見ると、主たる営業所1か所だけで事業を行う警備業者が9,219社、全体の84.2%を占めます。
つまり、警備業は一部の大手企業だけで成り立っている業界ではありません。全国各地で、小規模な会社が地域の建設会社、施設、店舗、催事などを支えています。
大手企業と同じ資本力や知名度を持っていなければ参入できない市場ではなく、地域との関係、対応の速さ、警備員を確保する力、教育の質、約束を守る日々の運営によって選ばれる余地がある業界です。
もちろん、小さな会社が多いことと、簡単に成功できることは同じではありません。ただ、最初から巨大企業と同じ土俵で規模を競わなくても、自分たちの強みが生きる場所を選べる可能性があります。
地味な業界でも、市場まで小さいわけではない
同じ警察庁資料では、全国警備業協会の調査に回答した5,210社だけでも、2025年の売上高合計は約3兆5,057億円とされています。調査年によって対象や回答数が異なるため単純比較はできませんが、少なくとも「地味な業界だから市場も小さい」とは言えません。
また、全国の警備業者のうち、交通誘導警備を行う事業者は8,241社で、全体の75.3%に当たります。
道路、上下水道、電気、通信、建築、土木などの工事が行われる限り、周辺を通行する人や車両の安全を確保する仕事が必要になります。地域の工事を支える交通誘導警備は、派手ではありませんが、社会の基盤と結び付いた仕事です。
若い世代が少ない業界だから、できることがある
2025年末の警備員数は59万6,985人です。このうち、30歳未満は10.9%、30~39歳は8.9%で、40歳未満を合わせても19.8%にとどまります。一方、70歳以上は21.6%を占めています。
若い人が少ないことは、業界にとって深刻な課題です。しかし、20代、30代の人から見れば、若い感覚やデジタルへの理解を生かせる余地が大きいとも考えられます。
例えば、警備会社には次のような業務があります。
- 求人の作成と応募者への連絡
- 警備員の配置と勤務予定の調整
- 顧客から届く受注情報の整理
- 新任教育・現任教育・資格取得支援
- 勤怠、給与、請求、原価の管理
- 現場との連絡やトラブルへの対応
- 会社や仕事の魅力を伝える広報
これらの業務には、電話、紙、表計算ソフト、担当者の記憶に依存している部分がまだあります。AIや業務アプリを導入する、教育を動画化する、応募者への連絡を速くする、SNSで会社の考えを伝える。ほかの業界では珍しくない改善でも、警備会社では会社全体を変える力になることがあります。
完成された仕組みに自分を合わせるのではなく、未完成の仕組みを自分でつくる。それが、小規模な会社で働く面白さの一つです。
小さな会社は、意思決定から実行までが近い
大企業には、資金力、信用力、採用力、教育制度など、多くの強みがあります。一方、組織が大きくなるほど、一つの提案を実行するまでに複数の承認が必要になることもあります。
小規模な警備会社では、経営者、管制担当者、営業担当者、現場で働く警備員の距離が近くなります。
「この連絡方法は分かりにくい」
「この教育は動画にした方が伝わる」
「若い応募者には、この求人原稿では届かない」
「受注情報を自動で整理できないか」
現場で見つけた課題を経営者へ直接伝え、小さく試し、修正しながら広げることができます。昨日まで存在しなかった仕組みを、自分の提案から会社の標準にできる可能性があります。
20代、30代にとっての魅力は、単に早く役職に就けることではありません。自分の意思決定によって、採用が変わり、教育が変わり、警備員の働き方が変わる。その経験を若いうちから積めることです。
現場に立つことは、経営への遠回りではない
警備業で社長を目指す場合、最初に現場を経験することがあります。
一見すると、経営とは離れているように感じるかもしれません。しかし、現場には経営に必要な情報が集まっています。
- なぜ警備員が定着する会社と辞めていく会社があるのか
- 建設会社や現場責任者は警備会社に何を求めているのか
- 無理のない配置と、利益を確保できる料金はどの程度か
- 教育で改善できることと、仕組みで補うべきことは何か
- 欠員が発生したとき、誰にどの順番で連絡すべきか
こうしたことは、経営書を読むだけでは身に付きません。
現場を知り、管制を経験し、採用・営業・教育・労務・数字へと仕事の範囲を広げていく。その過程で、警備員として働く視点が、警備員という「人財」を守り育てる経営者の視点へ変わっていきます。
「小規模企業が多い」ことと「起業が簡単」は違う
ここは誤解してはいけません。
警備業を始めるには、公安委員会の認定が必要です。営業所ごと、警備業務の区分ごとに警備員指導教育責任者を選任し、警備員への法定教育を行わなければなりません。採用、健康診断、社会保険、給与、装備品、配置、教育、請求、資金繰りなども適正に管理する必要があります。
受注した仕事があっても、必要な日に必要な人数を配置できなければ信用を失います。安い料金で仕事を増やしても、警備員の賃金や教育費、管理費を確保できなければ、会社は長く続きません。
必要なのは、勢いだけではありません。
法令を守る。警備員へ適正な賃金を払う。教育へ投資する。顧客との約束を守る。問題が起きたときに逃げずに対応する。そして、一定の利益を残して会社を継続する。
地味ですが、これを積み重ねられる人が経営者になります。
IMSが考える「自分が有利な場所で勝つ」ということ
「有利な場所で勝つ」とは、競争を避けることでも、簡単な業界を探すことでもありません。
自分の強みが生きる場所を選ぶことです。
人と話すことが得意な人は、採用や顧客対応で力を発揮できます。数字が得意な人は、原価管理や事業計画を改善できます。ITが得意な人は、受注・配置・教育の仕組みを変えられます。現場で信頼を得られる人は、警備員と顧客をつなぐことができます。
一人ですべてができる必要はありません。自分にない力を持つ人と協力し、互いの弱点を補いながら会社をつくる方法もあります。
IMSでは、現場だけを経験してもらうのではなく、その先にある管制、採用、営業、教育、労務、数字へ仕事の視野を広げ、会社を運営する力を身に付けることを重視しています。
有名な業界へ入ることだけが、将来をつくる方法ではありません。
まだ注目されていない業界に入り、自分で仕組みを変え、地域に必要とされる会社を育てる。誰かが完成させた会社で働くだけでなく、自分たちの手で会社をつくる。
警備業は、その挑戦ができる業界の一つです。
参考資料
執筆・監修:株式会社IMS 榎本 恒