警備員の接遇とは?工事現場・イベント警備で求められる苦情対応と考え方

工事現場で通行を止められた近隣住民から、「いつまで待たせるのか」と言われる。お祭りやスポーツイベントで、主催者ではない来場者から強い苦情を受ける。

警備員として働いていると、このような場面があります。

そのとき、「警備会社と契約しているのは施工会社や主催者で、目の前の人ではない」と考えてしまうと、対応を誤ることがあります。一方で、相手の要求をすべて受け入れることが接客でもありません。

警備員に求められるのは、相手が置かれている状況を理解し、安全を守りながら、できることとできないことを丁寧に伝える力です。

この記事では、前半で警備員に必要な接客の資質を、後半で工事現場やイベント会場における苦情対応の考え方を取り上げます。

第1部 警備員に求められる接遇の資質

警備員は、現場で最初に話しかけられる人

一般の人から見れば、発注者、施工会社、イベント主催者、施設管理者、警備会社の違いは分かりません。制服を着て現場に立っている警備員が、最も見つけやすく、最初に質問しやすい相手になります。

そのため、警備員の話し方や表情、説明の仕方が、施工会社や主催者、さらには現場全体の印象になることがあります。

警備業法第15条は、警備業者と警備員に特別な権限が与えられているわけではなく、他人の権利や自由を侵害してはならないことを定めています。警備員は、警察官のような権限で人を命令に従わせる立場ではありません。だからこそ、安全上の必要性を伝え、相手の協力を得る力が重要になります。

体力だけでは、良い警備員にはなれない

屋外での立哨や長時間の勤務には、一定の体力と健康管理が必要です。しかし、現場で長く信頼されるためには、それだけでは足りません。

特に重要なのは、次の7つの資質です。

  1. 時間と約束を守る
    道路上で工事やイベントを行う現場では、道路使用許可などにより、規制や作業を実施できる時間帯が定められていることがあります。その限られた時間の中でも、規制の設置や資機材の搬入など、特に重要な作業が契約時間の冒頭30分に集中する現場は少なくありません。そこへ警備員が30分遅刻すれば、単に本人の勤務時間が30分短くなるだけではなく、規制を開始できない、作業員や工事車両を待たせる、予定した工程を終えられないなど、現場全体を台無しにしてしまうことがあります。時間を守り、確実に勤務することは、安全技術以前の問題であり、警備員に対する信用の土台です。
  2. 小さな変化に気づく
    子どもの飛び出し、高齢者の不安そうな様子、車両の死角、自転車の接近など、「次に起こりそうなこと」を想像します。
  3. 確認を省略しない
    「いつもと同じだろう」と決めつけず、作業内容、車両の出入り、迂回路、緊急時の連絡先を確認します。
  4. 悪い情報ほど早く報告する
    苦情、ミス、体調不良、規制材の異常などを隠さず、早い段階で現場責任者や管制へ伝えます。
  5. 感情を管理する
    腹が立たないことではなく、腹が立ったときにも、言い返す前に自分の行動を選べることが大切です。
  6. 相手の立場から考える
    自分たちには必要な規制でも、住民には日常生活上の不便です。来場者には、理由を知らないまま行動を制限された不満があります。その背景まで想像します。
  7. 自分の役割と限界を理解する
    警備員だけで回答できないことを勝手に約束せず、責任者につなぎます。丁寧な対応と、何でも引き受けることは違います。

IMSでは、こうした力は生まれつきの性格だけで決まるものではなく、教育と経験によって伸ばせるものだと考えています。採用時に完成された人財を探すだけでなく、現場で必要な行動を具体的に教えることも警備会社の責任です。

警備員・現場監督・警備会社管制の報告連絡の流れ

第2部 工事現場・イベント警備での苦情対応

警備員にとって「お客様」とは誰か

警備会社と契約し、警備料金を支払うのは、施工会社やイベント主催者などです。しかし、警備サービスの影響を受ける人は、それだけではありません。

  • 工事現場の近隣住民
  • 道路を通行する歩行者、運転者、自転車利用者
  • 店舗や施設の利用者
  • お祭りや花火大会、スポーツイベントの来場者
  • 出演者、出店者、施設関係者

契約上のお客様と、現場で警備を受ける人、規制によって行動に影響を受ける人が異なる。ここに警備業の接客の難しさがあります。

すべての人を契約上の「顧客」と呼ぶ必要はありません。しかし、警備員は施工会社や主催者を代表する現場の窓口として、一人ひとりの安全と尊厳に配慮する必要があります。

工事現場では、近隣住民の生活から考える

施工会社にとって工事は仕事ですが、近隣住民にとっては、普段の生活の中へ工事が入ってくることになります。

「この道を通らないでください」と伝えるだけでなく、可能であれば、理由、待ち時間の見込み、通行できる経路を説明します。自宅や店舗への出入りなど、個別の事情がある場合は、現場責任者に確認して調整します。

正しい規制をしていても、挨拶をしない、質問を突き放す、説明する人によって内容が違うといった状態では、不信感が生まれます。

近隣住民の側に立つとは、工事を止めることではありません。必要な工事を安全に進めながら、住民の負担を少しでも減らす方法を考えることです。

イベント来場者は、主催者が守るべき大切な存在

イベントには、入場料や観戦料を支払うものもあれば、無料で参加できるお祭りや地域行事もあります。いずれの場合も、来場者が警備会社へ警備料金を直接支払う関係ではありませんが、主催者は来場者に安全に楽しんでもらうために警備を依頼しています。

「警備会社と直接契約している相手ではないから、お客様ではない」という理解では、主催者が警備を配置した目的とずれてしまいます。

来場者が「なぜ通れないのか」「去年は通れた」「係員によって説明が違う」と訴えているとき、その人は単に怒りたいのではなく、必要な情報を得られず困っているのかもしれません。

雑踏警備では、一人への不十分な説明が周囲の不満や滞留を生み、群集全体の安全にも影響する可能性があります。苦情対応は接客だけの問題ではなく、安全管理の一部でもあります。

苦情は「内容」と「感情」を分けて受け止める

苦情を受けたときは、次の順序で対応します。

  1. まず安全を確保する
    車道や搬入口など危険な場所で長く話し込まず、安全な位置へ案内します。
  2. 何に困っているのかを聞く
    強い口調だけに反応せず、通行したいのか、時間を知りたいのか、説明不足に不満があるのかを整理します。
  3. 確認できた事実を説明する
    分からないことを推測で答えず、公開できる情報だけを伝えます。
  4. 代替案を示す
    迂回路、待ち時間の目安、別の入口など、可能な選択肢を案内します。
  5. 自分で決められないことは責任者へつなぐ
    工事時間、規制変更、補償、主催者判断が必要な事項を、警備員がその場で約束してはいけません。
  6. 会社へ報告し、記録する
    同じ苦情が繰り返される場合は、看板不足、説明の不統一、配置人数、導線計画など、仕組みの問題を見直します。

丁寧な対応と、我慢させることは違う

相手の立場を理解することは、暴言、威圧、暴力、危険な要求まで受け入れることではありません。

2026年10月1日から、カスタマーハラスメントを防止するために必要な措置を講じることが事業主の義務になりました。警備会社も、現場の警備員個人に対応を任せきりにせず、報告先、交代の判断、責任者を呼ぶ基準、警察へ連絡する基準などを定めておく必要があります。

正当な意見や苦情には丁寧に向き合う。一方で、著しい迷惑行為から警備員を守る。両方を実現することが会社の責任です。

良い接客は「笑顔」だけではない

警備員の接客というと、挨拶や言葉遣いを思い浮かべるかもしれません。もちろん、それらも大切です。しかし本当に求められるのは、相手の事情を理解し、危険を見落とさず、必要な情報を伝え、自分だけで判断できないことを組織につなぐ力です。

建設会社やイベント主催者も、警備会社も、近隣住民や来場者も、本来は対立する存在ではありません。安全で円滑な現場をつくるという目的は共通しています。

警備員を「人を止める人」ではなく、「安全のために人と現場をつなぐ人」として育てる。その積み重ねが、警備会社への信頼につながるとIMSは考えています。

参考資料

兵庫県警察「雑踏警備の手引き」

e-Gov法令検索「警備業法」

厚生労働省「職場におけるハラスメントの防止のために」

執筆・監修:株式会社IMS 榎本 恒