警備員を含む「保安職業」の求人倍率6.41倍――なぜ人財は集まらないのか?

警備会社の経営者が集まると、かなりの確率で人手不足の話になります。

「募集を出しても応募が来ない」
「採用しても長く続かない」
「仕事の依頼はあるのに、警備員を確保できず断っている」

いずれも、警備業界では珍しい話ではありません。

警察庁のウェブサイトで公開されている「警備業における適正取引推進等に向けた自主行動計画」によると、2025年度平均の有効求人倍率は、警備員が含まれる「保安職業従事者」で6.41倍でした。全職業の1.10倍と比べても、かなり高い数字です。

また、全国警備業協会が2026年7月に実施した自主行動計画フォローアップ調査では、回答した警備会社の約84%が人員不足と答えています。

ここでいう求人倍率6.41倍とは、ハローワーク統計上の有効求職者1人に対し、有効求人が約6.41件あるという意味です。ただし、「保安職業従事者」には警備員以外の職種も含まれるため、警備員だけの求人倍率が6.41倍という意味ではありません。また、民間求人サイトなどを含む、世の中のすべての求人を数えた数字でもありません。

それでも、警備員を含む保安職業で採用競争が厳しい状況にあることは、この数字からも読み取れます。

では、なぜこれほど人財が集まらないのでしょうか。

「人がいない」で終わらせてよいのか

警備会社側は、つい「若い人が来ない」「今はどこも人手不足だから仕方がない」と考えてしまいます。

確かに、人口減少など会社だけでは解決できない問題もあります。しかし、求職者から見れば、働く場所は警備会社だけではありません。警備会社同士だけでなく、物流、介護、建設、小売、飲食など、さまざまな業界と人財を取り合っています。

そう考えると、「なぜ警備業を選ばないのか」と問うだけでは足りないように思います。

数ある警備会社の中から、なぜ自社を選んでもらえないのか。

こちらの問いの方が、経営者にとっては厳しいものです。しかし、改善できる余地も見えてきます。

採用できないことと、定着しないことは別の問題

応募を増やすために、求人広告の写真や文章を工夫することは大切です。募集賃金を周辺企業と比較することも必要でしょう。

ただし、求人広告を変えただけでは、入社後の働き方までは変わりません。

採用できない原因と、採用しても定着しない原因は、分けて考える必要があります。

求人広告では「働きやすい会社」と書いてあっても、実際には休憩を取りにくい。現場で困っても相談先が分からない。急な予定変更が多い。苦情を受けても警備員個人に対応を任せる。資格を取った後の将来像も見えない。

このような状態では、一度は入社しても長く働いてもらうことは難しくなります。

警察庁サイトで公開された自主行動計画でも、賃金や処遇だけでなく、長時間労働の是正、休憩時間の確保、多様な働き方、教育内容の改善、メンタルヘルスケアなどが課題として挙げられています。

特に印象的なのは、クレーム対応を警備員個人に任せず、組織として対応する必要性が示されていることです。

警備員は現場の最前線に立ちます。しかし、最前線に立つことと、すべての責任を一人で背負わせることは違います。

選ばれる警備会社に必要な5つの条件

1.賃金と手当を分かりやすく説明する

日給額だけでなく、交通費、資格手当、研修中の賃金、現場が中止になった場合の扱い、社会保険などを、応募者が理解できる形で示す必要があります。

条件を良く見せることよりも、入社前後の説明を一致させることが大切です。

2.勤務時間と休憩を「現場任せ」にしない

警備員の仕事には、現場によって早出、移動、待機、延長が発生します。だからこそ、会社が実際の拘束時間や休憩状況を把握しなければなりません。

休憩と決めていても、来訪者対応や近隣対応などを続けていれば、十分な休憩とはいえません。契約内容や配置計画を発注者と相談することも警備会社の仕事です。

3.一人ひとりに合う現場を考える

体力、年齢、経験、資格、居住地、勤務できる曜日、家庭の事情は人によって違います。

全員を同じ条件に当てはめるのではなく、その人財が力を発揮できる配置を考える。これは優しさだけではなく、定着率と警備品質を高めるための経営判断です。

そのためには、受注する仕事の種類を広げ、配置の選択肢を増やすことも大切です。

4.苦情や事故を個人の責任で終わらせない

現場で苦情を受けた警備員に、「うまく対応しておいて」と言うだけでは会社の役割を果たしているとはいえません。

どの段階で管制へ報告するのか。現場責任者へ誰が伝えるのか。会社としてどこまで対応するのか。あらかじめ手順を決めて共有し、教育しておく必要があります。

5.入社後の将来を見せる

警備員として入社した後、資格者、隊長、管制員、所長、経営者へ進む道があるのか。それとも、何年働いても同じ仕事のままなのか。

特に若い人財や独立志向のある人は、現在の賃金だけでなく、数年後の自分を見ています。

IMSグループでは、警備員から所長、取締役、社長へ進む道をつくってきました。全員が社長を目指す必要はありません。しかし、本人が望むなら挑戦できる環境があることは、警備業で働く意味の一つになると考えています。

給与以外の差別化は、すでに始まっている

給与はもちろん重要です。しかし、給与額だけで差別化を続けると、さらに高い条件を提示する会社が現れたとき、比較されやすくなります。

実際に人財の定着へ取り組んでいる警備会社を見ると、金額とは別の部分にも工夫があります。ここでは、各社の公式サイトと、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)が各社の取組を紹介した公開事例から、参考になるものを紹介します。制度や運用は変更される可能性があるため、以下は各資料の掲載時点の内容です。

事例1 勤務日数と時間を、本人の事情に合わせる

島根県の企業警備保障株式会社について、JEEDが2019年7月に公開した事例では、一定の基準を満たす社員を対象に、75歳までの継続雇用制度が紹介されています。契約社員となった後は、本人の事情に応じて短日・短時間勤務を選べる仕組みも掲載されています。

さらに、技量や体調を踏まえて工事現場へ配置し、本部担当者が現場を巡回して声を掛ける取組も紹介されています。

ここで参考にしたいのは、単に高齢者を雇っていることではありません。

年齢や体力が変わっても、勤務日数、時間、現場を調整しながら働き続けられるようにしていることです。

週5日勤務できる人だけを採用対象にするより、週2日なら確実に働ける人、午前中の現場に向いている人、土日だけ働きたい人、経験を活かして巡回や指導ができる人まで選択肢に入れた方が、会社全体の供給力を高められる可能性があります。

事例2 ベテランを「人数」ではなく、教える人財として活かす

岐阜県のインラック株式会社について、JEEDが2023年2月に公開した事例では、ベテラン社員と若手社員をペアで現場へ配置し、経験や緊急時の対応、顧客との接し方を伝える取組が紹介されています。

同社の事例によれば、法定の新任教育時間が30時間から20時間へ短縮された後も、同社は30時間の教育を継続し、配属先に応じた現場実習も行っていました。また、SNSを使って現場から会社への報告や相談をしやすくし、年齢とともにフルタイム勤務が難しくなった場合には、短時間勤務、現場巡回、営業所内の業務などを用意した例も紹介されています。

ベテランを「若い人より動けない」と見るのか、「失敗しそうな場面を先に察知できる人財」と見るのかで、会社での活かし方は大きく変わります。

若手にとっても、いきなり一人で現場へ出される会社より、相談できる先輩と一緒に経験を積める会社の方が、安心して働き始められます。

事例3 直行直帰でも、孤立させない

福岡県のATUホールディングス株式会社について、JEEDが2026年に公開した事例では、採用前の職場見学や実習によって、実際の仕事と職場環境を確認できる機会を設けています。入社後は段階的な教育体系を設け、現場OJTと社内外の訓練を組み合わせています。

さらに、直行直帰や一人勤務が多い警備業の特徴を踏まえ、スマートフォンとクラウドを使って日々の体調や業務状況を共有しています。同事例では、①現場の引継ぎ、②自分の状態、③周囲の状態を、それぞれ13文字以内で報告する「3点報告」も紹介されています。同社が2026年10月16日に公式サイトで公開した記事でも、体調報告システム、相勤者からの報告、現場情報をクラウドで引き継ぐ取組を確認できます。

これは管理を厳しくするためだけの仕組みではありません。体調不良や現場の問題を早く見つけ、警備員を孤立させないための仕組みです。

給与が同じであれば、「何かあった時に会社とつながれるか」は、働く人にとって大きな違いになります。

事例4 適性を見て配置し、合わなければ異動も考える

協和警備保障株式会社は、公式採用サイトで、2025年4月時点の平均勤続年数を9.2年、正社員比率を53.6%と公表しています。また、事前面談で本人の適性や希望を確認して配属先を決め、働き始めて違和感がある場合には異動についても柔軟に意見を聞くと説明しています。

資格取得後は副隊長、隊長、本部社員へ進むキャリアも示されており、実際に警備隊員から本部社員へ進んだ担当者の例も紹介されています。IMSグループにも、警備員として入社し、グループ会社の社長やIMS本体の取締役へ進んだ人財がいます。

求人広告に「キャリアアップできます」と書くだけでなく、次の役職、必要な資格、実際に進んだ人を見せる。これも給与以外の差別化になります。

差別化は、珍しい福利厚生を増やすことではない

これらの事例に共通しているのは、派手な制度ではありません。

・勤務日数や時間を相談できる

・入社前に仕事を見て、ミスマッチを減らせる

・一人で現場へ出た後も会社とつながれる

・ベテランから若手へ経験を伝えられる

・資格取得後の役割が見える

・現場が合わない場合に配置を見直せる

・年齢や体力が変わっても別の役割で働ける

このような仕組みは、必ずしも大企業だけができるものではありません。むしろ、経営者と現場の距離が近い中小の警備会社だからこそ、本人の事情に合わせて早く決められることがあります。

ただし、求人広告に書くだけでは差別化になりません。実際にその制度を利用した人がいるか。現場の管理者まで制度を理解しているか。相談したことで不利益を受けないか。そこまで整って初めて、会社の強みになります。

もちろん、すべてを一度に導入する必要はありません。まずは「週2日なら働ける人財をどう配置するか」「新人を最初の数回だけベテランと組ませられないか」「資格取得後の次の役割を示せないか」といった、現場で確実に実行できるところから始めるのが現実的だと思います。

独立するなら、安く受注して人数を増やすだけでは続かない

警備業で独立を考えている人にも、この求人倍率は重要な数字です。

仕事を受注できても、配置する警備員がいなければ売上にはなりません。また、人財を集めるために賃金を上げても、受注単価が低ければ教育費や管理費を確保できません。

独立後に必要なのは、売上を増やすことだけではありません。

・警備員へ適正な賃金を払えるか

・社会保険や各種手当を負担できるか

・新任教育、現任教育、資格取得を支援できるか

・管制や営業、事務を維持できるか

・欠員や急な変更に対応できる余力を持てるか

・一定の利益を確保しながら、取引先へ安定して人員を供給できるか

ここまで考えて初めて、持続可能な警備会社になります。

安さだけで仕事を取り、人財への支払いと教育を削る経営は、一時的に売上をつくれても長くは続きません。人財が定着せず、受注を断り、残った警備員の負担が増えるという悪循環に入りやすいからです。

求人を出す会社から、選ばれる会社へ

求人倍率6.41倍という数字は、「警備員がどこにもいない」という意味だけではありません。

求職者が複数の選択肢を持ち、会社を比較しているということでもあります。

警備員を単に現場へ配置する人数として見るのか。それとも、一緒に会社をつくる人財として見るのか。その違いは、求人広告の文章よりも、日々の処遇、教育、配置、相談対応に表れます。

人手不足を嘆くだけでは、人財は増えません。

警備会社側も、自分たちは働く場所として選ばれる会社になっているのかを見直す必要があります。

仕事がある会社から、人財が働き続けたい会社へ。

これからの警備会社に必要なのは、求人広告の数を増やすことだけではなく、入社した人財が将来を描ける会社をつくることではないでしょうか。

参考資料
警察庁サイト掲載「警備業における適正取引推進等に向けた自主行動計画」
東京労働局「一般職業紹介状況」――求人倍率の用語解説
高齢・障害・求職者雇用支援機構「企業警備保障株式会社」
高齢・障害・求職者雇用支援機構「インラック株式会社」
高齢・障害・求職者雇用支援機構「警備業界でも障害者は活躍できる―ATUホールディングス株式会社」
協和警備保障株式会社「採用情報」
※数値・制度は2026年10月時点の公表資料に基づいています。

執筆・監修:株式会社IMS 榎本 恒