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警備会社は何円あれば始められる?開業費より怖い「給与の先払い」
警備業で独立したい方から、「警備会社を始めるには、いくら用意すればよいですか」と聞かれることがあります。
事務所を借り、会社を設立し、警備業の認定を受け、制服や備品をそろえる。こうした開業時の費用は、比較的イメージしやすいと思います。
しかし、警備会社の経営で本当に注意しなければならないのは、開業日に支払うお金だけではありません。
仕事を受注してから警備料金が入金されるまで、警備員の給与や採用費などを会社が先に支払えるか。
ここを見落とすと、仕事が増え、帳簿上では利益も出ているのに、給与日に現金が足りないということが起こります。特に営業の得意な社長ほど陥りやすい、黒字倒産の罠です。
目次
- 「開業できる金額」と「会社を続けられる金額」は違う
- 売上が増えたのに、なぜ現金が減るのか
- 警備員10人の給与だけで、毎月いくら先に出るのか
- 営業の得意な社長ほど注意したい黒字倒産
- 独立前に作るべき資金繰り表
- 相棒は仲の良さだけで選ばない
- IMSが経営を一人で抱え込ませない理由
- 受注する前に確認したい7つのこと
「開業できる金額」と「会社を続けられる金額」は違う
「警備会社は何円あれば始められるか」という問いに、すべての会社へ共通する答えはありません。
同じ交通誘導警備でも、何人から始めるのか、事務所を借りるのか、車両を持つのか、求人広告へいくら使うのかによって、必要な資金は変わります。取引先の締日と入金日、警備員の給与日によっても大きく変わります。
したがって、必要資金は次の三つに分けて考える必要があります。
- 会社設立、認定申請、事務所、備品などの初期費用
- 売上が入金されるまでに先に支払う運転資金
- 欠員、受注減、入金遅れなどに備える予備資金
会社を設立できる金額だけを用意しても、会社を続けられるとは限りません。独立前に重点を置くべきなのは、むしろ2番と3番です。
売上が増えたのに、なぜ現金が減るのか

警備会社が工事現場へ警備員を配置しても、その日に警備料金を受け取れるとは限りません。請求書を発行し、取引先の締日と支払日を経て、初めて会社の口座へ入金されます。
一方、警備員の給与は、取引先からの入金を待って支払うものではありません。労働基準法第24条では、賃金を毎月1回以上、一定の期日を定めて支払うことなどが定められています。
つまり、取引先からまだ入金されていなくても、給与日が来れば会社は給与を支払わなければなりません。
会計上は売上や利益が計上されていても、売掛金は回収するまで現金ではありません。帳簿上は黒字でも、支払いに必要な現金が不足して事業を続けられなくなることを「黒字倒産」といいます。
警備会社では仕事が増えると、警備員の給与だけでなく、求人、新任教育、健康診断、制服、装備品、交通費、社会保険などの支出も先に増えます。
そのため、急に売上が伸びたときほど、口座残高が減ることがあります。
警備員10人の給与だけで、毎月いくら先に出るのか
仮に、次の条件で簡単に計算してみます。
- 警備員10人
- 1日当たりの賃金1万1,000円
- 1人当たり月18日勤務
この場合、1カ月分の賃金だけで次の金額になります。
10人 × 1万1,000円 × 18日 = 198万円
もし警備料金を回収するまでの間に、会社が2カ月分の給与を先に支払う条件なら、賃金だけで396万円が必要です。
もちろん、これは説明のための仮定です。実際の賃金、勤務日数、締日、給与日、取引先の支払条件によって金額は変わります。
しかも、必要なのは賃金だけではありません。
- 社会保険等の事業主負担
- 採用広告や面接にかかる費用
- 新任教育中の賃金
- 健康診断
- 制服、ヘルメット、誘導灯、無線機などの装備品
- 現場までの交通費や車両費
- 管制、経理、事務所の費用
- 雨天中止や急な欠員への対応費用
そのため、「認定申請と備品でいくらかかるか」だけを調べても、十分な開業資金は計算できません。
基本となる考え方は、次の式です。
必要資金 = 初期費用 + 入金までの先行支出 + 予備資金
営業の得意な社長ほど注意したい黒字倒産
営業力は、独立するうえで大きな武器です。新しい取引先へ足を運び、相手の困り事を聞き、仕事を任せてもらう。創業直後の会社には欠かせない力です。
しかし、営業の得意な社長は、「この仕事を取れば会社が大きくなる」と考え、受注を先に増やしやすい傾向があります。
大口の仕事を受ければ、配置する警備員を採用し、教育し、装備品を用意しなければなりません。ところが、警備料金が入るのは後です。さらに、取引先から支払条件の延長を求められたり、請求内容の確認に時間がかかったりすれば、入金は想定より遅くなることもあります。
「利益が出る仕事だから受ける」という判断だけでは不十分です。
その仕事を始めるために、いつ、いくら現金が出ていくのか。入金まで会社が耐えられるのか。既存の給与や支払いへ影響しないか。ここまで確認して、初めて受注できる仕事になります。
仕事を取る力と、仕事を断る力は、どちらも経営者に必要です。
独立前に作るべき資金繰り表
資金繰り表とは、会社へ入る現金と出ていく現金を、月ごとに並べた表です。
売上予定ではなく、実際の入金予定日を記入します。支出についても、給与日、社会保険料、家賃、求人費、税金、借入返済など、実際に支払う月へ入れます。
日本政策金融公庫も、今後数カ月の入金と支払いを月ごとに並べ、将来の現金残高を予測することを勧めています。
警備会社であれば、少なくとも次の項目を確認したいところです。
- 月初の現金残高
- 取引先別の入金予定日と金額
- 警備員、管制、事務スタッフの給与
- 社会保険料と税金
- 採用、教育、健康診断、装備品の費用
- 事務所、車両、通信などの固定費
- 借入金の返済
- 月末に残る現金
1カ月先だけでなく、少なくとも数カ月先まで並べると、「この月に足りなくなる」という兆候を早めに発見できます。
相棒は仲の良さだけで選ばない
一人で起業するより、信頼できる相棒と一緒に始めたいと考える方もいるでしょう。
仲が良く、苦しいときに支え合える関係は大切です。しかし、考え方がいつも同じであることが、良い経営チームの条件とは限りません。
営業が得意な人が「この仕事は取るべきだ」と考えたときに、相棒が同じ勢いで賛成するだけでは、資金繰りの危険を見落とす可能性があります。
そのようなときに必要なのは、次のような異なる視点です。
- 入金前に、いくら支払いが発生するのか
- 本当に必要人数を採用できるのか
- 管制が無理なく配置を組めるのか
- 教育や資格者の配置に問題はないか
- 取引先の信用状態や支払条件に問題はないか
営業の得意な人と、数字を慎重に見る人。新しいことを始めたい人と、現場の負担を確認する人。スピードを重視する人と、仕組みを整えてから進めたい人。
異なる視点は、意見の対立を生むこともあります。しかし、その違いが会社のブレーキや安全装置になります。
相棒に必要なのは、自分とまったく同じ考え方ではありません。互いに信頼しながら、都合の悪いことも言い合える関係です。
株式や役員の立場を共有する場合は、仲の良さだけに頼らず、誰が何を決めるのか、意見が分かれたときにどう判断するのかも、起業前に決めておく必要があります。
IMSが経営を一人で抱え込ませない理由
IMSグループでは、一つの会社だけを大きくするのではなく、顔と名前が一致する規模の会社を増やし、経営を担う人財を育てることを大切にしています。
ただし、会社を任せることは、経営を一人で抱え込ませることではありません。
営業が得意な社長もいれば、現場や人財育成に強い社長もいます。数字に強い人も、仕組みづくりに力を発揮する人もいます。すべてを一人で高い水準までこなせる人は多くありません。
だからこそ、自分の得意分野を生かしながら、足りない視点を持つ人と一緒に経営することが重要です。一社だけでは解決しにくい課題は、グループで相談し、異なる経験を持つ社長や担当者の意見を聞くことができます。
IMSが独立希望者を見るときも、営業ができるかだけを確認するわけではありません。人財を育てられるか、数字と約束を守れるか、自分と違う意見を受け止められるか。会社を長く続けるためには、こうした姿勢も必要です。
経営者には決断力が求められます。しかし、何でも一人で決めることが決断力ではありません。必要な情報を集め、自分と違う意見も聞いたうえで、最後に責任を持って決めることが経営者の仕事です。
受注する前に確認したい7つのこと
創業期に大きな仕事の相談が来ると、断ったら次はないのではないかと不安になります。
その気持ちは理解できますが、受注する前に最低限、次の項目を確認してください。
- 警備料金はいくらで、利益を確保できるか
- 取引先の締日と入金日はいつか
- 入金までに会社からいくら出ていくか
- 必要な警備員と資格者を確保できるか
- 採用、教育、装備にいくらかかるか
- 工程変更、雨天中止、減員時の条件はどうなっているか
- 想定より入金が遅れても給与を支払えるか
この7項目を数字で確認できなければ、その仕事は「売上」にはなっても、会社を守る仕事になるとは限りません。
警備会社の独立で最初に守るべきものは、社長の見栄や売上規模ではありません。決められた日に人財へ給与を支払い、取引先との約束を守り、会社を翌月も続けられる状態です。
いくらあれば始められるかを考えるときは、会社をつくる日までではなく、仕事を始めてから警備料金が入る日までを見てください。
そして、自分が営業に強いなら、数字や現場から慎重な意見を言ってくれる人を近くに置いてください。逆に慎重になりすぎるタイプなら、外へ出て仕事をつくる人の力が必要です。
仲の良い人と始めることは心強いものです。それ以上に大切なのは、異なる視点を持つ人と同じ目的に向かえることです。その組み合わせが、会社を始める力だけでなく、続ける力になります。
参考資料
- 中小企業基盤整備機構 J-Net21「黒字倒産とはどのようなものでしょうか?」
- 厚生労働省「賃金の支払方法に関する法律上の定め」
- 日本政策金融公庫「『資金繰りが不安』から抜け出す」
- 中小企業基盤整備機構 J-Net21「資金繰り改善法(基礎編)」
執筆・監修:株式会社IMS 榎本 恒