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独立する前に、自分の「財産」を数えてみよう――お金・実力・信用・仲間の棚卸し
会社の名刺には、自分の名前のほかに、会社名や役職が印刷されています。仕事をするとき、私たちはその一枚と一緒に、会社が積み重ねてきた信用も差し出しています。
独立すれば、名刺は新しいものに変わります。しかし、これまでの信用や仕事の進め方まで、そのまま引き継げるとは限りません。
一方で、名刺には載っていなくても、自分の中に残るものがあります。身につけた技術、相手の話を聞く力、約束を守ってきた実績、困ったときに相談できる関係。本人が当たり前だと思っていることにも、事業の土台になる力があるかもしれません。
独立の準備では、預貯金だけでなく、こうした「自分の財産」も棚卸ししておきたいところです。
自分を大きく見せるためでも、足りないものを数えて諦めるためでもありません。今あるものを確かめ、自分に合った独立の方法を考えるためです。
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その実績は、会社を離れても再現できますか?
例えば、会社で大きな売上を担当している人がいたとします。
本人の営業力は、もちろんあるでしょう。一方で、会社の知名度、長年の取引実績、商品、価格、納期を守る組織の力も、受注を支えているかもしれません。自分が獲得したと思っている仕事にも、事務や現場の社員が築いた信用が含まれていることがあります。
「自分に任されていた仕事」と「自分だから選ばれていた仕事」は、分けて考える必要があります。
これは、会社員時代の実績を否定する話ではありません。その経験のうち、独立後にも使える力を見つけるための確認です。
会社の看板がなくても、相手の困りごとを聞き出せるか。自分で提供できる内容を説明し、仕事を任せてもらえるか。そこまで具体的に考えると、実力の輪郭が見えてきます。
なお、会社の顧客や顧客情報を、当然に自分の財産として数えてはいけません。これまでの経験や人との信頼関係と、会社の資産は別のものです。
独立前に再点検したい七つの財産
ここでいう財産は、会計上の資産ではなく、事業を始め、続けるための土台です。次の七つから考えてみます。
1.お金と生活基盤
開業に使えるお金だけでなく、収入が予定どおりにならない期間に、生活をどう支えるか。事業に使うお金と、暮らしを守るためのお金を分けて考えます。
2.技術・知識・経験
「営業経験がある」「現場を知っている」だけではなく、何を、どの条件なら自分でできるのか。他人に教えられることや、過去の失敗から学んだことも含まれます。
3.信用と評判
約束を守る、連絡を返す、問題を隠さない。そうした日々の対応から生まれる信用です。名刺の肩書がなくなった後にも、相談してもらえる理由があるかを考えます。
4.顧客や市場への理解
誰が、何に困り、何にお金を払っているのか。自分の「やりたいこと」だけでなく、相手が求めることを説明できるかどうかです。
5.相談・協力できる人との関係
助言してくれる人、耳の痛い意見を言ってくれる人、協力を相談できる人。連絡先の件数ではなく、どんな関係を築いているかが大切です。相手を財産として所有するのではなく、互いに支え合える関係が土台になります。
6.健康・時間・生活を支える環境
どの程度の働き方なら続けられるか。通院や介護、子育てなどの事情も含めて考えます。家族がいる場合も、当然に無償で手伝ってもらえるとは考えず、生活への影響を話し合っておく必要があります。
7.自分を知り、学び直す力
得意なことだけでなく、苦手なことを認められるか。知らないことを聞き、教わったことを試し、うまくいかなければ修正できるか。現在の能力に加えて、これから力をつける姿勢も見ておきたいところです。
派手な実績がなくても、財産はある
仮に、営業成績は目立たないものの、新人が困ると必ず声をかける人がいたとします。説明が分かりやすく、相手が理解するまで付き合い、問題が起きたら早めに報告する人です。
本人は「特別なことはできない」と思っているかもしれません。しかし、人を採用し、育て、チームで仕事をする事業なら、その力を生かせる場面があります。
反対に、営業実績があっても、他の仕事を見下したり、周囲に厳しく要求するばかりだったりすれば、独立後の協力関係を築くうえで課題になります。
今の会社で目立つ評価を得ているかどうかと、独立後に何を生かせるかは、同じ問いではありません。
人より優れているところを探すだけでなく、自分が周囲にどんな価値を提供してきたかを振り返ることです。
財産は「持っている」だけで終わらせない
紙に書き出したら、それぞれについて四つの質問をしてみます。
- そう言える根拠は何か。具体的な仕事や出来事で説明できるか。
- 会社を離れても使えるか。今の設備、看板、同僚の支援に、どの程度頼っているか。
- 独立後の何に役立つか。受注、教育、採用、資金管理など、使い道が見えるか。
- 足りない部分をどう補うか。学ぶ、人に頼む、仕組みを使うなどの方法はあるか。
例えば「人脈が広い」で終わらせず、誰に何を相談できるのか、自分は相手に何を返せるのかまで考えます。
ただし、知人がいることと、仕事を発注してもらえることは別です。応援の言葉を、確定した売上のように見込むわけにはいきません。
点数をつけて合否を決めるより、根拠と使い道を確かめる。その方が、次に準備することを具体的にできます。
苦手が分かれば、必要な仲間も見えてくる
棚卸しをすると、営業は得意でも数字の確認が苦手、人を育てるのは好きでも新規開拓は苦手、といった偏りも見えてきます。
苦手があるから経営者に向かない、と結論を急ぐ必要はありません。大切なのは、それを放置せず、どう補うかです。
一緒に起業する相棒を探す場合も、気が合うことだけでなく、自分と違う見方をしてくれるかを考えたいところです。売上を増やしたい人の隣に、利益や支払時期を確認する人がいる。勢いよく進む人に、現場や社員への影響を問いかける人がいる。
意見が違うことは、必ずしも相性の悪さではありません。もちろん、違いがあるだけで十分でもなく、役割や判断方法を話し合える関係が必要です。
自分の不足が分かれば、必要な仲間や支援も、漠然としたものではなくなります。
独立する前に、財産を育てる道もある
IMSグループでは、独立希望者が、まず既存のグループ会社に社員として入り、その会社で顧客と警備員を増やし、経験を積んでから独立を目指す道があります。
最初から全てをそろえて開業するのではなく、営業、採用、教育、管制などを経験しながら、事業を続けるための力を身につけていく考え方です。
私たちは、人を「人財」と表記しています。最初から完成された人だけを求めるのではなく、学び合い、力を発揮できる関係や環境をつくることを大切にしています。
これは独立を目指す本人にも当てはまります。今ある力だけで可能性を決めつけず、経験を重ねて、自分の財産を育てていけばよいのです。
棚卸しの目的は、次の一歩を決めること
独立前の棚卸しは、「自分には何もない」と確認する作業ではありません。「これだけ持っているのだから成功する」と自信を膨らませる作業でもありません。
今ある財産を確かめ、使える形に整え、足りないところを補う。そのために行います。
お金を増やす必要がある人もいれば、現場経験を積む方が先の人もいるでしょう。身近な人に自分の仕事ぶりを聞いてみることで、本人が見落としていた強みが分かるかもしれません。
独立する前に、何が足りないかを探すだけでなく、自分が何を持っているかを確かめてみる。そこから、自分に合った独立への道筋が見えてきます。
警備業での独立に関心をお持ちの方は、今ある経験をどう生かし、これから何を身につけるかというところから、IMSへご相談ください。
執筆・監修:株式会社IMS 榎本 恒